建築問題Q&A

契約書の取り交わし

私は建築士です。小規模の戸建ての設計依頼を受けましたが、契約書は必ず作成しなければならないでしょうか?
延べ面積の大小に関わらず、なるべく詳細な契約書面を取り交わすことをおすすめします。
建築士法では、延べ面積300㎡超の建築物の新築に係る設計契約・監理契約では契約書の取り交わしが必要とされています(同法第22の3の3)。つまり、法律上は延べ面積300㎡以下の建築物についての設計・監理契約では契約書の取り交わしは不要ということになります。 しかし、顧客と建築士とが設計契約あるいは監理契約を締結する場合には、
  1. 設計者側による当該契約内容の重要事項の説明および通常の契約書で必要的記載事項とされている項目を含めた重要事項説明書の交付が必須であること(同法24条の7)
  2. 顧客とのトラブルが発生した場合に契約書上の取り決めが建築士の防御材料になるケースが多々あること
などの理由から、契約時の合意内容はしっかり契約書(+添付資料)という形で残しておくべきと考えます。
契約書を正確に作成し、添付資料も過不足なく揃えることは、のちのトラブルを未然に防ぐために非常に重要です。当事務所では、作成された契約書の書面チェック・推敲を承ります。契約書の作成をご検討の方は、一度お問い合わせください。
私の建築会社でごく小規模の戸建住宅の新築工事を請け負いました。契約書の作成は必須ですか?
規模の大小に関わらず契約書の取り交わしは必須です(建設業法第19条1項)。
ただし、必要事項を網羅していれば、注文書・請書の交換により請負契約を締結することは可能です。
合意内容を正確に反映した契約書を作成するには、専門知識のある弁護士にご相談することをおすすめします。
元請会社からビルの新築工事の一部分について下請けをしました。契約書の取り交わしは必須ですか?
契約書の取り交わしは必須です。契約書面に建設業法で定める必要的記載事項が網羅されているか、必ず確認してください。
元請から下請に対する無理な要求、追加変更工事代金の不払いなどのトラブルは多く、行政においても建設業法令遵守を促すためのガイドラインを繰り返し改定するなど、元請・下請間のトラブルが社会問題化している一面があります。下請工事の請負代金や支払い方法、工期・工程の内容、追加変更指示があった場合の追加変更工事契約の手順などを含めて、当該下請契約の内容が適正であることを十分に確認したうえで契約書の取り交わしを行ってください。
当事務所では、契約書の内容確認を承ります。スポット相談も可能です。建築の専門知識のある弁護士に、一度ご相談ください。
瑕疵担保責任(=契約不適合責任)の取り決めを契約書や約款で任意に変えることはできますか?
任意に変えてよい部分と変えてはいけない部分があります。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)第94条と第95条で定められている主要構造部及び雨水の浸入に関する瑕疵担保責任期間10年は強行規定であり、変更はできません。
それ以外については原則当事者間の合意によって自由に変更できます。ただし、宅建業者が売主の場合に瑕疵担保期間を2年未満とすることが禁じられる(宅地建物取引業法第40条)、などの制限はあります。
可能な範囲でできるだけ有利な取り決めをしたい、顧客の特性に合わせて約款の内容を変更したい、などのご希望がある場合は、専門家である弁護士にご相談することをおすすめします。

調査・設計・施主との打ち合わせ

打ち合わせの記録はどのように残すべきですか?
打ち合わせごとに議事録を作成して施主と共有しましょう。
施主との打ち合わせで平面図に都度修正を加えたり、仕様変更も都度平面図上にメモで加筆したりすることも多いでしょう。ところが、トラブルになった後にそれらを見返してみても、いつの打ち合わせ内容なのか、施主と合意に至った内容なのか検討用のメモにすぎないのか、施主からの要望なのか、施工者サイドのメモなのか、…等、その趣旨が明らかにできない場合があります。
施主の要望を正しく施工に反映させるためにも、また、後々トラブルがあった際に「施主との打ち合わせどおりの施工」であることを証する材料を残す意味でも、その都度、打ち合わせ議事録を作成して施主に確認してもらったうえで署名をもらうことを強くおすすめします。
議事録の作り方や共有の仕方、議事録として残すべき打ち合わせ内容等の細かい点についても、弁護士へお気軽にご相談ください。
施主から建築基準法等建築関係法規に違反する設計や施工を強く希望されており困っています。どうすればよいでしょうか?
もちろん、違法な設計・施工を行ってはいけません。
建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければなりません(建築士法第2条の2)。
施主が、容積率がオーバーしてしまうのに小屋裏に居室を設けることや、その地域の用途制限に違反するような用途の居室を設けることを希望したとしても、建築士は建築基準法等建築関係法令の制度の趣旨を説明し、施主を翻意させなければならない立場にあります。「施主にどうしてもと言われたから」というのは言い訳にはなりません。
違法な設計・施工を求められてお困りの場合は、弁護士に一度ご相談ください。対処法等アドバイスいたします。
契約直後から、施主の要望があれこれと膨らみ、確定したはずのプランがまとまらなくなってしまいました。どうすればよいでしょうか?
施主の追加変更要望に適切に対応してください。
施主が一度契約をした新築工事のプランを変更したり、追加の要望を出すこと自体は自由です。
一方、受注者は、当該追加変更の指示に応じた場合に必要となる請負代金の増額や工期の延長を施主に要求することができます。
施主から特別な指示や大きな追加変更の要求があり、それが当初予定していたスケジュール(設計期間・確認申請の時期・着工時期など)に影響を及ぼすようであれば、要所要所で理由を説明したうえで工期を修正し、施主の承諾を得るようにしてください。適宜工期を修正し、合意を得ておかないと、後述するような遅延違約金のトラブルが生じる恐れもあるため注意が必要です。
なお、予め施主と協議したうえで、既定の標準プランに追加変更可能なオプションを限定して設定し、施主が追加変更できる範囲を絞りこんでおくという手法も、お互いの合意があれば可能です。

着工~追加変更工事

追加変更工事を契約したときには契約書を改めて取り交わすことが必要ですか?
契約書の取り交わしまでは必要ありませんが、変更内容を書面に記載して、双方が署名又は記名押印をして取り交わさなければなりません(建設業法第19条2項)。
追加変更工事は、「当初の請負契約の範囲内の工事なのか」「追加変更工事の増額費用について当事者間で合意があったのか」など、後々トラブルになることが多い場面です。施主との間で追加変更の取り決めをしたときは、追加変更費用も含めて適宜合意内容を書面にして取り交わすようにしてください。
お互いの合意のもと交わす書面は、のちのちトラブルが起こった場合の重要な証拠となります。どういった範囲で合意書面を作成すればよいのか確認したい・作成した書面の内容をチェックしてほしい、という場合には、一度弁護士にご相談ください。

引き渡し時

顧客が最終金を支払ってくれません。支払いがあるまで引き渡しを留保してよいですか?
顧客が正当な理由なく支払わないのであれば引き渡しを拒むことは可能です。
民間連合協定工事請負契約約款(以下、「連合約款」という。)では、発注者が正当な理由なく支払いを遅滞したときは、受注者は契約の引き渡しを拒むことができる旨を定めており、請負契約時にそのような取り決めをしていれば、ご質問のケースで建物の引き渡しを拒むことは可能です。また、契約書や約款でそのような取り決めをしていなかったとしても、民法上の留置権の行使として、建築業者は留置権に基づき建物の占有をすることができると解されています(民法295条)。
ただし、施主からすれば「完成した建物にダメ工事があるから手直しをしてもらえるまでは支払わない。」などの事情があるかもしれませんし、施主の支払い拒絶が同時履行の抗弁(民法533)などの正当な理由があるケースもあります。
このような状況を長引かせるのは、もちろん好ましいことではありません。顧客との交渉が必要となった場合は、話がこじれて決裂してしまう前に、弁護士にご相談することをおすすめします。
契約後、施主の希望が二転三転し、設計の打ち合わせが予定よりも伸びたため、着工時期が遅れ、引き渡しも当初の予定より遅れたことで、施主から遅延違約金を請求されました。支払う義務はありますか?
施主との間で工期を変更する合意がなければ、遅延の責を負うリスクがあります。
施主が一度契約をした新築工事のプランを変更したり、追加の要望をすること自体は自由です。
一方、受注者は、当該追加変更の指示に応じた場合に必要となる請負代金の増額や工期の延長を施主に要求することができます。施主から特別な指示や大きな追加変更工事の要求があり、それが工期に影響を及ぼすようであれば、直ちにその理由を説明したうえで工期の延長を施主に求め、その承諾がなければ追加変更の要望には応じられない旨の意思表示をしてください。
また、工期変更の承諾を得た場合には、必ずその合意内容を書面にして施主の署名押印をもらうようにしてください。
連合約款では、受注者が正当な理由なく契約期間内にこの契約の目的物を引き渡すことができないときには違約金の支払い義務がある旨定めていますが、上記のように、工期遅延の正当な理由を書面等で残しておけば、施主からの工期遅延に基づく違約金請求に対抗することができます。
工期の延長の際にかわす合意書は、遅延のトラブルの際、重要な証拠となります。合意書の作成方法に不安があれば、書面の取り交わしの前に弁護士にご相談ください。当事務所では、作成した書面のチェック・推敲を承ります。スポット相談も可能です。
施主とは契約前に何度も入念に打ち合わせを重ね、契約を結び、着工後も適宜打ち合わせをしながら工事を進めました。しかし引き渡しの際に「要望と違う」とクレームを言われてしまいました。どうしたらいいですか?
設計図書どおりの施工を完了していれば原則として施工者は債務の履行を完了していると言えますが、注意が必要です。
施主はこれから建てるマイホームについて、思い描いていたイメージを設計士に伝え、設計士は施主の予算やその地域の建築規制などを踏まえて、施主と協議しながらプランを図面に起こし、その結果が契約書・設計図書・見積書にて表現されているはずです。しかしながら、ご質問のケースのように施主からクレームがあったり、場合によっては訴訟を起こされたり建て替えを要求されたりすることがあります。施工者が請け負った内容は契約時の資料一式で定められた内容がすべてなので、設計図書や見積書等に記載されたとおりの施工を行えば施工者の債務の履行は完了となります。しかし、契約時の設計図書や見積書等の記載では曖昧な点があり、施工者が請け負った内容の詳細が読み取れない場合などには、クレームの内容に理由があるとの判断されてしまう可能性もあります。
工事を請け負う場合には、後々のトラブルを回避するため、「どこまでの範囲を請け負ったのか」「どういう仕様で工事をするのか」「どういう施工内容で請け負っているのか」「どこから先が当初契約の範囲外で別途工事となるのか」「仕様の変更はどこから先が別料金となるのか」などについて、なるべく契約時の書類で判別できるようにして、その内容を施主に十分説明をしておくべきです。
このようなトラブルがあった場合、契約書・設計図・見積書の内容を精査し、こちらの主張を整えていく必要があります。建築分野の知識が豊富な弁護士にぜひご相談ください。

引き渡し後

工事代金の未払いについて

未回収の工事代金があります。このままだと時効で請求できなくなりますか?
放置をすれば、時効期間経過後に顧客から時効を援用され、結果、未回収金の請求ができなくなってしまいます。
消滅時効には注意が必要です。特に、令和2年4月1日の民法改正前には「短期消滅時効」の制度があり、未回収の工事請負代金請求権は3年で時効消滅してしまいます(旧民法170条)。ただし、上記の民法改正によって短期消滅時効は廃止され、工事請負代金の消滅時効は一般の債権と同じく、「権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができるときから10年」となりました。
工事代金が回収できなかった、といったことが無いよう、なるべく早急な対応が必要です。時効を防ぐためには、訴訟を起こすことも検討してください。なかなか支払われない工事代金についてお困りの場合は、弁護士にご相談ください。
未払いの工事代金が時効にかからないようにするためには裁判手続きが必要ですか?
原則として裁判手続きが必要です。
顧客が未払い代金を一切支払おうとしない場合には、消滅時効が経過する前に、裁判を起こす等の手続きをする必要があります(民法147条等)。ただし、未払い代金の一部を回収したり、未払い代金の支払い約束を別途書面で取り交わしたりすることができれば、その時点をあらためて消滅時効の起算点とすることができます。消滅時効の起算点は訴訟の勝敗を決するほど重要な争点となり得ますので注意が必要です。
裁判手続となると、裁判所に提出する書面の作成や、資料を揃える等、慣れていない場合は、大変な労力がかかります。裁判手続をご検討の場合は、弁護士にご相談ください。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)について

建物の引き渡し後しばらくしてから、顧客から瑕疵があるとのクレームがありました。対応をするうえで注意すべきことはありますか?
調査が必須です。調査結果によって対応を検討することとなります。
引き渡し前の施主検査で施主が気になる箇所はすべて指摘をしてもらい、そのすべてを手直ししたうえで引き渡しをしていれば、本来ご質問のようなトラブルが起きないものと思われます。しかし、「引き渡し後の大雨で雨漏れが生じた」「居住して数年後に床が傾いてきた」など、引き渡し後しばらくしてから施主が瑕疵に気付くケースも少なくありません。
「瑕疵がある」と指摘された際には、その不具合が「契約した仕様や性能と異なる」「本来建物が有すべき性能がない」といった【施工者の行為に起因する施工の瑕疵】にあたるものなのか、「施工とは別の原因で起きた」「施工精度の誤差の範囲内だが施主が気になってクレームになっているに過ぎない」といった【施工の瑕疵とは言えない不具合】なのかを区別して対応する必要があります。
もちろん施主からすれば不具合には変わりないので、施工者は必ず調査を行いましょう。そしてその不具合が瑕疵担保責任や任意の保証契約(アフター保証契約など)が明らかに適用されるものであれば早急に対処すべきです。調査の結果【施工の瑕疵とは言えない不具合】と考えられるものについては、その調査内容を施主に正確に伝え、瑕疵担保責任や任意の保証契約が適用されないこと、施工者が対応する場合には有償となることを顧客に説明すべきです。
調査結果に基づく施主への説明・回答書面等の作成等についてお悩みの方は弁護士にご相談ください。

裁判を起こされた!

施主から、建物に瑕疵があるとして、損害賠償金による賠償を求める訴訟を起こされました。弁護士に代理人をお願いすべきでしょうか?
弁護士を代理人として主張や立証方法を練っていくことをおすすめします。
あくまでも訴状の内容を確認してからの判断となりますが、施主と施工者との間の任意の話し合いと、裁判所を介した主張立証のやり合いは全く別物と言っても過言ではないので、弁護士に依頼したほうがよいケースが多いです。
当事務所には建築分野の知識のある弁護士が在籍しており、数多くの訴訟案件に対応しています。訴訟を起こされて、今後の対応に困っている、という場合は、ぜひ一度お問い合わせください。
訴訟は最終的に判決で勝敗が決まると思いますが、勝敗の見通しは立てられますか?
証拠次第です。
よくある質問なのですが、ご自身の主張が裁判所に認められるか否かは証拠次第です。訴訟に勝つためには、設計に不備はない、施工方法に間違いはない、建築士や施工業者などの専門家として果たすべき注意義務は果たした、というのが大前提なのですが、「契約通りの施工だ」「合意内容どおりの追加変更工事を完了した」「施主から希望はあったものの、そこまでは請負契約の合意内容にはなっていない」「当初予定から工期が遅れたのは施主都合だ」「擁壁工事や外構工事は当初契約には含まれず別途費用の掛かる工事だ」などの施工者側の主張は、それを証する証拠がいかに揃っているか、で勝敗が決せられます。そういう意味でも、上記の質問回答でも言及している契約書や施主との打ち合わせ議事録等、施主との合意内容を証する書類を残すことは重要となります。
すでに訴訟を起こされてしまっている場合は、いまある証拠を十分に活かして、勝訴をめざします。当事務所には、建築分野に明るい弁護士が在籍しており、多くの訴訟案件に対応しています。現在訴訟中の方からのご相談もお受けしておりますので、一度お問い合わせください。